記事2「AAAS2018フェローに日本出身者4人」

【アメリカ・日本・研究】〔American Association for the Advancement of Scienceの記事の抜粋〕

米国科学振興協会(AAAS)*は、2018年11月27日に今年のフェロー*に選出された416人のメンバーを発表し、科学の進歩における並外れた功績を称えた。フェローは2019年2月16日にワシントンDCで開催されるAAAS年次総会(2019 AAAS Annual Meeting)でのフェローズフォーラム(Fellows Forum)で承認される。

フェローには、生物科学部門で選出されたラドガース大学ロバート・ウッド・ジョンソン医学大学院(Rutgers-Robert Wood Johnson Medical School)の井上正順氏*及び東北福祉大学の小川誠二氏*、地質学・地理学部門で選出されたウッズホール海洋学研究所(Woods Hole Oceanographic Institution)のススム・ホンジョウ氏*と、心理学部門で選出された南フロリダ大学(University of South Florida)の清水透氏*の、4人の日本出身者が含まれる。

 

幅広い分野の科学分野を代表するフェローは、先駆的な研究、その分野でのリーダーシップ、指導と指導、コラボレーションの促進、科学に対する一般の理解の向上など、さまざまな成果を挙げて毎年選出される。

 

過去には、発明者トーマス・エジソン(1878)、化学者ライナス・ポーリング(1939)、そしてコンピュータ科学者グレースホッパー(1963)などが、そして2018年のノーベル賞受賞者からはジェームズ・アリソン、アーサー・アシュキン、フランシス・アーノルド、ジョージ・スミスの4人がAAASのフェローに選出された。』

今回選出されたフェローの部門別内訳は、以下の通り。

  • 農業・食品・再生可能資源部門(Section on Agriculture, Food, and Renewable Resources)15人
  • 人類学部門(Section on Anthropology)8人
  • 天文学部門(Section on Astronomy)6人
  • 大気・水圏科学部門(Section on Atmospheric and Hydrospheric Sciences)10人
  • 生物科学部門(Section on Biological Sciences)112人
  • 化学部門(Section on Chemistry)47人
  • 歯学・口腔衛生科学部門(Section on Dentistry and Oral Health Science)5人
  • 教育学部門(Section on Education)11人
  • 工学部門(Section on Engineering)31人
  • 科学工学総合部門(Section on General Interest In Science and Engineering)9人
  • 地質学・地理学部門(Section on Geology & Geography)14人
  • 科学歴史学・哲学部門(Section on History and Philosophy of Science)3人
  • 産業科学技術部門(Section on Industrial Science & Technology)8人
  • 情報・コンピューター・コミュニケーション部門(Section on Information, Computing & Communication)20人
  • 言語学・言語科学部門(Section on Linguistics & Language Sciences)2人
  • 数学部門(Section on Mathematics)6人
  • 医療科学部門(Section on Medical Sciences)35人
  • 神経科学部門(Section on Neuroscience)16人
  • 薬学部門(Section on Pharmaceutical Sciences)4人
  • 物理学部門(Section on Physics)19人
  • 心理学部門(Section on Psychology)14人
  • 社会・経済・政治科学部門(Section on Social, Economic and Political Sciences)9人
  • 科学工学社会的影響部門(Section on Societal Impacts of Science and Engineering)5人
  • 統計学部門(Section on Statistics)7人

 

ニュースソース:
American Association for the Advancement of Science
AAAS Honors Accomplished Scientists as 2018 Elected Fellows(2018.11.27)

 

用語

米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science:AAAS)

ワシントンDCに本拠地をおく非営利団体。科学者間の協力を促進し、科学的自由を守り、科学界からの情報発信を奨励し、全人類の幸福のために科学教育をサポートする組織。世界的にも最大級の学術団体で、科学雑誌『サイエンス』の出版元である。

 

AAASには262の学会などが加入しており、それらを含めると1000万人以上の会員が所属していることとなる。

AAASウェブサイト

 

米国科学振興協会のフェロー制度

米国科学振興協会が議会や行政機関に会員を原則1年間派遣する制度。

議会ではいろいろな法案の作成に携わる等の影響力を持つ。フェローが研究者としての幅を広げると同時に、科学技術を政策に反映していく仕組みを作るという狙いがあり、日本人も数名選ばれている。

 

AAASのフェロー制度は日本の内閣府も参考にしており、平成26年より「科学技術政策フェロー」という職名を新たに制定している。

科学技術政策フェロー制度について(平成26年5月19日)

日本人フェロー4名のプロフィール

井上正順氏

生物科学部門で選出された井上正順(いのうえまさより)氏は、1963年に大阪大学理学博士修了後、大阪大学講師、Princeton大学研究員、Stony Brook大学教授、Rutgers大学生化学教授を経て、2012年より現職のラトガース大学ロバート・ウッド・ジョンソン医学大学院(Rutgers-Robert Wood Johnson Medical School)の教授に着任。

 

研究内容はSPP系の応用法の開発、トキシン/アンチトキシン(Toxin-Antitoxin)、mRNA干渉酵素、SPP系、コールドショック蛋白質、蛋白質工学。

 

彼と名古屋大学水野猛教授による発見は、2006年にノーベル医学生理学賞を受賞した米スタンフォード大のアンドルー・ファイアー教授と、米マサチューセッツ大医学部のクレイグ・メロー教授の「RNA干渉」発見の源流となった。

 

小川誠二氏

同じく生物科学部門で選出された小川誠二氏は、1957年に東京大学工学部応用物理学科を卒業後、スタンフォード大学でPh.D.(理学博士、化学物理)修得、PDフェロー、ベル研究所で研究員、主任研究員を経て特別研究員、イェシーバー大学アルバート・アインシュタイン医学部客員教授、(財)濱野生命科学研究財団小川脳機能研究所所長を経て、2008年より現職の東北福祉大学特任教授に就任。

 

磁気共鳴画像法 (MRI) において、神経血管結合による脳血流の変化を含めた生理現象によって生じるMRIの信号変化を観測するための基礎原理としてBOLD法 (Blood Oxygenation Level Dependent) を確立。1992年、BOLD法に基づいた画像処理法として機能的磁気共鳴画像法 (fMRI) を開発した。

 

2009年にトムソン・ロイター社からノーベル医学・生理学賞と化学賞の両部門の有力候補として発表されて以降、国内外のメディアから注目されている。

 

本庄不氏(Susumu Honjo

地質学・地理学部門で選出された本庄不(Susumu Honjo)氏は、1963年に北海道大学卒業後、プリンストン大学フェロー、カンザス大学カンザス地質調査所に勤務後、1970年にウッズホール海洋研究所(Woods Hole Oceanographic Institution)に準科学者として入社し、WHOIの上級科学者に昇進。米国籍取得。

 

主な研究分野は、海洋地質学、特に遠洋セグメンテーション。研究テーマは、海洋沈降のプロセスと速度、および大気から深海への二酸化炭素の形での炭素の除去。上層と深層の海洋プロセスを結びつける彼の研究は、海洋地質学、海洋化学、そして生物学の橋渡しとなり、海洋の生物地球化学に関する理解を深めている。

 

本庄博士は、大気から海洋の内部と海底への二酸化炭素(CO2)の移動の過程、速度、量をよりよく理解するための実験を行ってきた。

海洋炭素循環の理解のための国際共同研究プロジェクトとして1983年に設立された国際共同地球規模海洋共同研究(JGOFS)の創設者。

 

2014年にアメリカ地球物理学連合のフェローに選出。フェロー受賞者は「地球科学および宇宙科学の分野で非常に優れた科学的貢献をし、注目を集める科学者」と評価される。

 

彼の所属先であるウッズホール海洋生物学研究所(Marine Biological Laboratories, MBL, WHMBL)は、アメリカマサチューセッツ州ウッズホールにある全米最古の海洋生物学研究所。

 

清水透氏

心理学部門で選出された清水透氏は、1986年にメリーランド心理大学博士(認知科学および神経科学分野)修得後、M.S.メリーランド心理大学、慶應義塾大学心理学部後に現職の南フロリダ大学(University of South Florida)心理学部教授に就任。

 

CNS(認知神経科学)専門の神経科学・心理学教授で、研究内容は視覚情報処理、動物認知、比較神経科学および脳と認知の進化。担当講義は比較認知解剖学、比較心理学、学習心理学、生理学心理学、神経科学の方法、神経科学セミナー。